2009年10月11日

WJW編 第6回

第6回


「桜井さんとディアナのタッグは、チーム・ライトニングか……」
「蹴りの速さと、スピード……ぴったりだよね」
「な〜んか、重力を自在に操る高貴な女騎士みたいな名前だけどねぇ」
「村上姉妹は……極悪ツインズ。そのまんま?」
「他に言いようがないし、いいんじゃない。でも、あたし達のこれは何よ!」
「ノイジー・チャッツって何? レイちゃん」
「やかましいお喋り。 美加ッ! アンタのせいでこんなチーム名に……」
「違うもん。レイちゃんのせいだもん」
「何で私なのよ!」
「QTのせいだったら、絶対に泣き虫がつくもん」
「うっ……そ、それはともかく、問題はグリズリー山本組よね。ビューティー&ビーストって、謎のパートナーは美人レスラーって事?」
「意外と、紀美さんがビューティーの方だったりして……」
「……美加、あんたは紀美さんが美人レスラーに見えるような、もの凄いモンスターと試合をしたいわけ?」
「そんなのやだよぉ……」
などと無責任に盛り上がるキューティー金井と富沢レイのお喋りに、すぐ横で当のグリズリー山本が苦笑している。
そんな風だから、ノイジー・チャッツなどと名付けてしまうわけだ。
四チームでは、リーグ戦を組んでも三試合づつ。とりあえず初日に顔見せとして行った通常興業を含めて、四度の興業を集中開催する。
いよいよ明日が、WJW初のイベントマッチ『ツインスター・カップ』の開幕だ。
山本はすでに、パートナーの滞在先のホテルで対面を済ませているが、他のメンバーにはまだ、名前すら知らせていない。
本命が桜井組、対抗に村上姉妹との下馬評を、相手次第では覆すダークホースとして上げられる山本組。
憶測が憶測を呼び、珍しくグリズリー山本が注目を浴びるのは良い傾向。
リングでは派手だけれど、リング外では控え目な性格が災いして注目度が低いだけに、ここいらでWJW唯一のヘビー級の存在感を示して欲しいところ。
決して相手頼みにならず、それでいて得意技のジャンルも、見た目も、正反対の彼女とのタッグは戦力的にも拮抗するはず。気配り屋の山本らしい選択だろう。
「全敗だけは避けよう」が合い言葉の富沢&金井組が、不平不満も言わずに燃えているわけは、昨日の私の発言にある。
「優勝チーム以外で、大活躍した選手には私から個人賞を出すよ」
寸志と言うには多く、ボーナスと言うには少ない金額だが、貰えるものがあるなら気合いは入る。
優勝はほぼ無理だろうけれど、個人賞なら狙えます。
タッグリーグの目的は、日頃見逃されがちな選手個々の実力を、会場に集まってくれたファンに注視して貰うこと。
たった二試合では興行が成り立たぬ事もあって、三日間ともホリー・シエラとシンディー・ウォンのシングルマッチを組んでいるが、本来はメイン級のカードを第一試合に置いているのは、そんな気持ちの現れです。

千人収容の大阪IMPプラザくらいなら、何とか満員にできる力はあるはず。でも、さすがに集中興行となると、一試合ごとの客足は落ちる。
八割の入りなら、まず上々と考えてもいいかな。
『ツインスター・カップ』のオープニングマッチは、村上姉妹VS富沢レイ、キューティー金井組。
「どーせ、私たちが勝つなんて、誰も思っちゃいないよね」
なんてブーたれていた富沢も、ゴングが鳴れば目つきが変わる。序盤こそ攻め込まれたものの、中盤以降は素早いタッチワークで盛り返した。
「えーい。これで泣き虫返上!」
必殺……というには威力不足の金井のダブルアームスープレックスだが、それが二連続で決まれば話は違う。
舐めてかかった千秋の体力を根こそぎ削り、千春のカットがあわや、間に合わなければ、まさかの大勝利になったところだ。
押せ押せの流れを、千秋のナックルバートが断ち切る。
富沢の流血によるダメージが大きく、頼みの綱の細かいタッチワークが途切れた金井が千春の新技、デスバレーボムに捕まり万事休す。
十九分二十五秒の熱戦に盛大な拍手が贈られた。
そして……
メインイベントは桜井、ディアナ組vsグリズリー山本、X組。
すでに三人が揃ったリングに、間もなくシークレットのパートナーを送り出す。
「山本を、よろしくお願いします」
呼吸を整え、コールを待つ彼女に最後のお願い。
フンと鼻を鳴らして、メイド服の裾を整え、メイデン桜崎は意地悪く微笑んだ。
「私のスタイルに、あの大きなお嬢様がついて来られれば良いのですけれど」
「まだ、パラシオンでサブミッションを磨き直し切れてない?」
「桜井千里相手には、まだまだ。でも、あの双子相手には充分です、社長様。良い機会を与えて下さいましてありがとうございます。……あいつらだけは、マジぶっコロ」
背景にどす黒い炎を背負ってるように見えるのは、きっと目の錯覚。
響き渡る入場曲に騒然となった会場に、しゃなりしゃなりと進み出た。
ビューティー&ビースト。メイデン桜崎、グリズリー山本組が桜井&ディアナに対峙する。
誤算だったのは、開始早々飛び出した桜井のハイキック。
山本の目の上を深く切り裂き、大流血を引き起こす。
リングドクターが試合を止めるべきかを悩むほどの激しい流血は、さすがに巌のようなグリズリー山本の躰をふらつかせる。
急造タッグの悲しさか、桜崎のフォローのタイミングも合わず十二分二十二秒。
代わったディアナのソバットにグリズリーが沈んで、痛い黒星を喫した。
メイデン桜崎&グリズリー山本組のエンジンがようやくかかったのは、次の試合。
桜崎曰く『因縁の』村上姉妹との対戦だ。
例によって、スタートダッシュからラフファイトで押しまくる村上組に、桜崎がプチンと切れた。
まるっきり作り物の営業スマイルを貼り付けたまま、ねちねちと小技のサブミッションで千秋を嬲り始める。慌てて逃げ出し、千春に代わっても同じ。
ウチは関節技を主にしているのは富沢しか居らず、千春も千秋も本格的なサブミッション地獄を味わったことがないのだ。当然、対応は遅れる。
次第に技が大きめになり、ついには豊満な肢体を擦りつけるように決める桜崎独特のSTF、メイド・イン・ヘヴンが千春を獲えて悲鳴を上げさせた。
でも、ねちねち苛めるのを楽しみすぎて、時間を忘れてしまったらしい。
命からがらロープに逃げたところで、三十分フルタイムドロー。
それでも本人は大満足らしく、満面の笑みを浮かべてリングを降りた。
「さあて、美加。覚悟は良いわね」
「おー。目指せ個人賞」
気合いを入れた富沢、金井組を待ち構えるのは、大本命の桜井、ディアナ組。
誰もが圧勝劇と思った試合だが、失うものなど何も無い富沢、金井がとんでもないギャンブルに出たのだ。
二人がターゲットとしたのは、なんとディアナではなく桜井だった。
元よりの実力差がある。
一気に蹴散らそうと突出した桜井を自軍のコーナー深く呼び込んで、得意の細かいタッチワークで孤立させてしまったのだ。
この大会、冴えに冴えている金井のダブルアームスープレックスが、またも連発し、ダブルラリアートで不意を突き、飛び込もうとするディアナに気を取られたレフェリーの背後で、更にダブルのパイルドライバー。
なんと、金井が桜井をフォールするという前代未聞の光景に会場は沸きに沸いた。
苦し紛れに藻掻いた脚がロープに触れなければ、本当にあぶなかった。
でも、さすがにそこまでだ。
投げにかかった金井をエルボーで振り切って、ディアナにタッチ。
桜井を追い込むだけで精一杯だった二人に、元気いっぱいのディアナを封じ込める術はなく、十九分五十五秒。
ディアナのヘッドシザースホイップが富沢を沈めて、本命組が薄氷の勝利を得た。
大健闘の富沢、金井組は最終日も盛り上げてくれた。
冴え渡る金井のダブルアームスープレックスは、今度はなんとグリズリーの巨体も投げきり、会場からヤンヤの喝采を浴びた。
それでも、完全に歯車の噛み合ったメイデン桜崎、グリズリー山本組は的確に二人のタッチワークを阻止し、十九分四十秒。
グリズリーのヘッドバットに目を回した金井を押さえ込み、美女と野獣の初勝利。
一勝一敗一引き分け。
三連敗ながら、富沢、金井組も中身の濃い試合をしてくれた。
それに触発されたのか、桜井の打撃も冴える。
一勝一分けと、かろうじて優勝の可能性を残していた村上姉妹を一気に蹴散らし、二人が守りに入ればディアナに代わり、跳び技の長距離射撃で攪乱する。
そして最後は貫禄のエクスプロイダー。
十四分七秒で、千春を沈めて三連勝。
終わってみれば下馬評通りの完全勝利で、第一回のツインスターカップを制した。

「お疲れ様。まずは……かんぱ〜い」
元より未成年だらけ。
グラスの中身がビールではなく、コーラやウーロン茶なのだから、グラスを鳴らし終えるより先に肉の焼ける音があちらこちらから。
まだ、質より量のこの連中には、食べ放題の焼き肉バイキングで充分だ。
「ありがとうございました」と頭を下げて、山本が桜崎のグラスにビールを注ぐ。
怖いもの知らずの村上姉妹が、妙に桜崎の周囲に近づかぬようにしているのが可笑しい。
バッチリとお仕置きできて満足なのか、桜崎もご満悦でビールのグラスを舐めている。
とりあえずお腹が膨れた頃を見計らって、お待ちかねの個人賞の発表。
スタッフの投票で決めたのだけど、今回は満場一致。
本人だけが「どーせ私じゃないもん」とばかりにカルビを頬張った所に名前を呼ばれて、目を白黒させながら盛大に噎せた。
大奮闘だったキューティー金井は、満場一致の票決とみんなの拍手を受けて、また涙をポロリ。でも、今日は誰も怒りません。
何とか分け前を貰おうと画策する富沢を、少なくとも打ち上げの間はブロックしきったようだ。
それと、気になるのがもう一人――。
一人、鶏肉を選んで焼きつつ、山盛りのサラダをメインにしている桜井千里の隣に移動。
「優勝おめでとう」
「……ありがとうございます」
「どう? ディアナとのタッグは」
「悪くありません……でも」
そこで言葉を句切り、言い淀む。
ちょうど焼けた鶏肉を横取りして、ポンと桜井の肩を叩いた。
「守るものがないと思い込むのもいいけど、会場の応援がある限り、レスラーは孤独じゃないって事、わかったかな? ……だったら、OK。あなたはタッグ向きじゃないし、来月はまたシングルで組んでいくよ」
桜井千里が、笑った。
posted by Luf at 01:23| Comment(0) | WJW | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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