2009年11月29日

WJW編 第10回

WJW編リプレイ 第10回

 「企みやがったよな、社長の奴……」
聞こえよがしの村上千春のセリフを、知らん顔で聞き流す。
まあ、言いたい気持ちもわかる。……何より、本当に企んでいるわけだし。
はっきりと言葉にしないものの、ソニックキャットとの実力差は、当の本人が一番解っている。言葉の裏を返せば、勝てる気がしないからこその当てこすりだ。
TWWAジュニアタイトル。
現在、WJWに存在する唯一のベルト。
絶対王者と言えば聞こえが良いけれど、未完成な若手の序列の中で動かぬ王座にどれだけの価値があるのだろう?
千春にも、まだ小さくまとまって欲しくはないし、まだ挑戦者でいる方が似合うと思う。返上させるよりは、奪い取った方が刺激になるはず。
……次の一手も、準備できているのだから。
とはいえ、事の流れというのは、一度動き始めると、こちらの思惑を無視して転がってしまうものらしい。
千春とソニックのタイトル戦リマッチが組まれた四月。予定されているカードを一瞥した桜井千里が眉を顰めた。
「シンディー・ウォンですか? ……いまさら」
「文句があるならTWWAに言って。派遣選手の選抜は、向こう任せの契約なんだし」
答える代わりに、バタン! 叩きつけるようにドアを閉じて出て行ってしまう。
ホリー・シエラでも役不足気味の桜井の対戦相手に、グリズリー山本が越えんとしているシンディーでは、如何ともしがたいのは当然。フリー選手の短期参戦は、今回ソニックがいるわけだし。
そのソニックでは、桜井の相手は辛い。
「難儀だなぁ……」
思わずぼやいたのが聞こえたのだろう。秘書の井上霧子が、口をへの字に曲げて耳打ちしてくる。
「小耳に挟んだ話ですけれど……ホリー・シエラがフリーに転出するそうです」
「……本当に?」
「引き留めるTWWAとの交渉が長引いて、今回は欠場だとシンディーが教えてくれました」
「あ痛たた……それは予想外。で、あっちの方は?」
「来月の予定です。今月は何とか凌いで下さい」
「興行的には、ソニックがいるし、タイトルマッチもあるしで、何とかなるけど……モチベーションが下がると、次に影響しかねないね」
どてっと机に突っ伏して、ジタバタ。
目標が無くなるのが、エースの桜井と、前ジュニアチャンプの千春という看板二人なのだから困ってしまう。
「ここでデビューの新人、ラッキー内田選手を前面に押し立てますか?」
クルクルと器用に指先でペンを回しながら、霧子さん。……私がそれをできないと知っていながら、わざわざ見せつけるように。
……おっと、被害妄想。ネガティヴ思考はやめないと。
「技術的には遜色ないけど、体力的にはまだ、プロの身体になってないからなぁ。真壁と違って下地があるだけに、セミファイナルとかでデビューをさせても、なるべくプレッシャーはかけずにいてあげたいかな」
いつの間にか、デスクに紅茶。
茶葉はわからないけれど、ふわりと香りが心地良い。
「それに、どこをひっくり返しても桜井の満足いく相手はいないしね……」

悩んだ結果の四月シリーズは、チャレンジマッチに落ち着いた。
最終日のセミファイナルにTWWAジュニアのタイトルマッチを組み込んで、メインイベントは、それぞれ桜井千里に挑むWJW選手のシングルマッチ。
結果が見えるなら、経過を見て貰おうという苦肉の策です。
グリズリー山本が、村上姉妹が、ディアナ・ライアルが、そして新人ラッキー内田がメインイベントのリングに上がった。
……反応は、まちまち。
ホリー・シエラのいない鬱憤を叩きつけるかのような、激しい打撃の嵐に晒され、叩きのめされ、這いつくばり。そこから何度立ち上がれるか。
すべてが、そんな試合になった。
強さも認めるし、人気も充分。でも、桜井千里の問題点もはっきりと見えてしまう。
「失敗……ですよね、このチャレンジマッチ」
「うん。大失敗」
霧子と二人、顔を見合わせて大きな溜息。
当然のように勝ち名乗りを受けて、不満げな顔で戻ってくる桜井。この一連のシリーズが、自分の為の試合ではないとわかっていない。
この相手なら、桜井が勝つのは当然の事。格上の桜井に挑む対戦相手に、何を残すかが問われる試合なのに、一方的に叩き潰して何の意味があるのだろう。
桜井千里は、まだエースとして成熟していない。
彼女に『プロレス』をさせるには、当分の間、同格以上の相手を与え続けなければならないってことでしょう。
桜井が一皮剥けてくれると、ウチのマッチメイクも変わってくるのだけれど……。
当然の如くに、再び「うきゅー!」というソニックの咆吼が上がり、TWWAジュニアのベルトがWJWから流出する事が確定した。
恨みがましい千春の視線。「何で?」と問いかけるような、目標を失ったディアナ達ジュニア戦士の視線。
普段はポーカーフェイスを決め込んでいるくせに、こんな時だけズケズケと
「来月は、それなりの相手を用意して下さるんですよね?」
と言ってくる桜井千里。
えーい! 勝手な事ばかり言ってくるんじゃない。
次のステップは考えているけれど、契約書にサインするまでは正式発表できないんだから。
こっちの苦労もわかってよ。
そんな事をぼやいていたら、霧子さんに「もっぱら苦労しているのは、交渉している私ですけどね」と言い返されてしまった。
いや、そうなんだけど……私、孤立無援?
そんな状況じゃ、士気も上がるはずがない。
道場で気合いが入っているのは、早くもキューティー金井を越えんとしている真壁那月と、体力強化を課題としているラッキー内田の新人コンビくらい。
生真面目なグリズリー山本は、他にする事のない桜井同様に黙々とメニューをこなしているが、もう一つ熱が入っていない。
「おーい。次のシリーズの対戦表をここに貼っておくよ」
形だけの黙礼をして知らん顔の連中に、そういって媚びてみる。
……反応無し。
携帯ゲーム機をパタンと閉じて、トテトテと様子を見に来るのは金井くらいのものだ。
「う〜。QTは全戦、那月ちゃんとシングルかぁ」
「一応、一年先輩なんだから、あんたは簡単に負けんじゃないわよ」
「レイちゃんだって、似たり寄ったりのくせにぃ」
「私はまだ、真壁に負けた事無いもんね。……って、社長? 誰、このグレース・ハンって!?」
対戦表を見た富沢レイが、見慣れぬ名前に素っ頓狂な声を上げる。
続いて覗き込んだ金井も、目を丸くした。
「千春ちゃん、またタイトルマッチだよぉ。でも、マリー・ネルソンなんて外人さんいたっけ?」
「いるわけ無いでしょ。それに、ついこないだソニックキャットにベルト獲られたばかりじゃん」
「金井、なに寝ぼけた事言ってんだよ。それに『千春ちゃん』はよせって何度言やぁわかるんだ?」
不満タラタラにやってきた千春も、対戦表を見て首を傾げる。
何か異変があると嗅ぎつけて、対戦表の前にようやく全員が集合してくれた。
「リリィ・スナイパー……強いのですか?」
誰とは訊かない所が、桜井らしい。
まったく、誰の為に苦労していると思っているのよ。
「強いよ。……きっと桜井よりも」
「……安心しました」
こらぁ。それだけ聞いて練習に戻ろうとするんじゃない。
「霧子さんの尽力もあって、次期シリーズより、新たにWWCAと提携を結ぶ事になりました。TWWAの関係に不満があるわけじゃないけど、ホリー・シエラがフリーとして独立してしまった今、あそこからウチに派遣して貰える選手じゃ力不足は否めないから」
「皆さん、レベルが高いのですか?」
不安げな顔で山本が呟く。
こんな時は、ヒールスイッチを入れてくれた方が心強いのに。
「マリー・ネルソンは、シンディー・ウォン以上。グレース・ハンは、そのやや下って感じかな。千春といい勝負しそうなくらい」
「えーっ」
悲鳴と、どよめき。
その千春といい勝負できそうなのが、桜井と内田に千秋くらいというのがWJWの現状なのだから。
「みんな、まだ未熟なんだから。お山の大将で安住を決め込むよりも、より強い相手にぶつかって、思い切り叩きのめされなさい。まずは、そこから」

五月シリーズ開幕の和歌山で、初めてWWCA勢と顔を合わせる。
リリィ・スナイパーこそ長身だが、他の二人はジュニアクラスの体格と知って、ウチのメンバーに緊張が走った。
身体のサイズがイコール強さでない事は、ソニックキャットで身に染みている。それでも、見た目の問題で、体格差のある相手に負けるのは嫌なものだ。
WWCA勢を招いての最初のシリーズは、私の期待していた通りのものとなった。
エースの桜井千里が、リリィ・スナイパー相手に全敗。
千春が挑んだWWCAジュニア王座戦も、余力を残して跳ね返された。
それどころか、WWCA勢の誰一人、土つかずでシリーズを終えたのだから堪らない。最終戦の京都から戻るバスの中は、皆だんまりでお通夜のようだ。
「……これで、本当によろしかったのでしょうか?」
声を潜めて霧子さん。
ペットボトルのウーロン茶で湿らせた唇で、私は満面の笑みを浮かべた。
「いい顔しているよ、みんな。WWCAの連中は、さすがに上手いもの。……手が届きそうに見せて斬り落とされるものだから、負けて気合いが入るのよ。自分の弱点を見せられているから、もうちょっとで何とかなるって、思えちゃう」
「……先月のリベンジなのですね」
「いつかは桜井も、このレベルになって欲しいのだけど」
バスが道場兼の合宿所に戻ると、誰もが我先にとバスを降りていった。
posted by Luf at 23:27| Comment(4) | TrackBack(0) | WJW | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コーチ無しだと、海外選手の中堅どころが良い壁になるのですね。CPU団体のデフォルト選手の引退した頃の5,6年目位からEXも誰が勝つか分からなくなって面白いのかなぁ。

 桜井は団体内に促すキャラが居ないと扱いずらいかもですね。試合で勝ちに拘る余りのアクシデントが有って有るかなとは思いますけど。
 やはり此処はカオス様にコテンパンにやられてプロレスの意味を教わるしかないのか?
Posted by at 2009年11月30日 03:20
ゲームシステムの話をしてしまいますと
ウチの団体規模では、カオス様は派遣されてくれないんです><
TWWAにもメガライトがおりますので、トップが来るのなら
何の問題もなかったのですが…

ウチのメンバーの評価値は
桜井が900台後半。内田が700中盤
その他が600台にひしめき合っている状況です。
トップの来日がない状況ですと
中堅団体=>強豪団体に提携を切り替えると
ちょうどそこの中堅クラスが良い壁になってくれるわけで。
これ、レッスルの育成テクニックのひとつだったりします(^^ゞ

この評価値の差が有りすぎる状況から
一方的に叩き潰すような試合になってしまうのが必然。
それをお話として文章化すると、こうなってしまうのですよ。

以上、微妙に舞台裏でしたw

コメント、ありがとうございます。
Posted by Luf at 2009年12月01日 21:35
そうそう、桜井はキャラ的に「戦うしか能がない」し、かといって指導者的な立ち位置で若手の奮起を促すタイプでもないから、挑むべき格上の相手がいないと光らないんだよね。
うちのリプレイでも、最初は「所属は新人選手のみ、桜井がエース」でリプレイ書こうとしたんだけど、やっぱり上手くお話が回らなくて十六夜を入れることにw
あとは、他団体と絡むのも一つの手かもね。
南や龍子と絡ませればそれなりに光ると思うですよ。
Posted by SMS at 2009年12月04日 00:51
>SMSさん
こちらのドタバタでお返事が遅れてしまってすみません。

あくまでもリプレイなので
流れの中で多少のアシストはしても、ただ一人のキャラの為に全体の流れをねじ曲げる事はしません。
どうなるのかは、今後の流れ次第でしょうね。
Posted by Luf at 2009年12月10日 21:35
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