2013年02月17日

STARGAZER(後編)お試し版

また、間が開いてしまって申し訳ありません。

仕事の方も年を重ねると、忙しさが増すのは当たり前のこと。
仕方ないと思いつつも、なかなか時間が取れない自分がもどかしい……

まぁ、それでも
本を読んだりドラクエ7をやったり、poserで遊んだりする時間くらいはあるのですけどね(^_^;)

お話の続きを書くには、それなりに纏まった時間が必要で
それがなかなか取れないのです。


とりあえずはまた、お試し版でお茶を濁すわけで
こんなあたりまで出来ていますと、生存報告しておきます。

では……どぞ!


後編 流れ星(のように):(Like a)Shooting Star(お試し版)


 長いシリーズも、残す所三戦。
 WARSにとっては、社運をかけた一大イベントとなる横浜文化総合体育ホール大会も、もう間近だ。参加レスラーたちばかりか、スタッフたちも浮き立つ頃。
 所用で遅れた会場入りしたサンダー龍子は、真壁那月やサキュバス真鍋こと眞鍋つかさまでがパイプ椅子を両手に抱えて会場作りに精を出しているのを見て、目を丸くした。
「どうした、那月。何でお前らが椅子を並べてるんだよ」
 声をかけられて、初めて龍子に気づいたのだろう。慌てて礼をした那月の手からパイプ椅子が滑り落ち、雑然とした会場に、大きな音が響いた。
「すみません。報告が遅れているみたいですけど、青木と木村が……」
 汗の雫が流れる顔を顰めて、手振りでエスケープを告げる。
 さすがに、言葉にする気にはならないのだろう。
 三ヶ月前に入った新人たちの中で、最後に残った二人も怪しいと見ていたが、とうとう耐え切れなくなったらしい。
 これで、全滅……まあ、それも構わない。
「それで、那月たちまで手伝っているのか」
「ええ。杉浦たちに任せても良いんですけれど、することがなく八つ当たりするよりは、身体を動かしている方が楽ですし」
 クール&エレガントなどと自称しながら、すぐに頭に血が上る那月だ。さもありなんと、納得していると、ひょいと横から、つかさが首を突っ込んできた。
「会場作りは、けっこう好きだから良いんだけど……香澄んが落ち込んじゃってるのが悲しいよん」
 心配そうに見やる視線の先では、すでに並べ終えた椅子に腰掛け、俯いている辻香澄の小柄な姿があった。慰めているのだろう。隣で、必死に話しかけているタッグパートナー、佐尾山幸音鈴の声も聞こえているのかどうか。
「香澄さんたちが悪いわけじゃないのに……」
 那月の呟きも道理だ。
 慣れない団体経営に加わっていることもあり、龍子自身が多忙のであることと、将来を見据える意味で、新人たちを香澄と幸音鈴に任せたのだ。もちろん、何かあった時の責任は龍子が取るつもりでいた。
「しょうがねえな……余計な仕事を増やしやがって。あたしも、久し振りに会場作りをしてみたかったんだが」
 冗談めかして言うと、滅相もないと那月とつかさが首を振る。
 バッグを担いだ龍子が香澄の方へ歩いて行くのを見て、彼女たちの顔にも笑みが戻った。
「……三ヶ月か」
 香澄の隣にドカッと腰を下ろして、龍子。慌てて立ち上がり、最敬礼をする二人を手で制して座らせると、今にも泣きそうな声で香澄が囁いた。
「ごめんなさい、龍さん……せっかく、任されたのに……」
「だから、香澄のせいじゃないって言ってんだろ」
 幸音鈴の声が重なる。
 のんびりと天井を見上げた龍子は、知らん顔して嘯いた。
「時間をかけ過ぎだな。あんな連中……あたしなら二週間で潰せるぜ」
 呆気にとられた顔で、「でも、でも……」と、しどろもどろな二人に人の悪い笑みを見せる。
「確かに、お前らに新人を任せたが……思い出してみろよ、香澄に幸音鈴。お前ら、あたしに育ててもらった記憶があるか?」
「だって、ボクは龍さんに憧れて……」
 と、言いかけた香澄が、思わず首をひねった。隣で眉間に皺を寄せた、幸音鈴も同様だ。
「新人を育てるなんて、おこがましい事……あたしにゃできねえよ。前のWARSを立ち上げた時、鶴見さん……ワールド時代の先輩だが、その人に相談したことがある」
「……なんて教えてくれたんです?」
「新人なんて、勝手に育つものだと、さ」
 戯けて言う龍子に、ようやく香澄に笑いが戻る。安心したのだろう。幸音鈴が笑いの輪を広げた。
「プロレスラーなんて、自分の体を削リ続ける商売なんだから、生半可な覚悟じゃできない。だから、新人なんて全員叩き潰すつもりでシゴキまくれとさ。そして、それでもまだ潰されなかった奴が、勝手にプロレスラーに育つらしい」
「龍さん、それ滅茶苦茶だよ……」
 笑いすぎて、目尻に涙を浮かべながら香澄。
 龍子は、癖のあるショートカットの香澄の髪を大きな掌でかき回しながら、真っ直ぐなどんぐり眼を見つめた。
「あながち外れちゃいなかったな。……ひかるに、お前ら。那月に幸音鈴。呆れるくらい勝手に、一端のプロレスラーに育ちやがった」
 滅多に聞けない龍子の褒め言葉に、幸音鈴と二人、顔を見合わせて頷いた。それでもまだ、香澄の顔は曇りがちだ。
「でも……せっかく縁があってウチに入ってくれたのに。他にやりかたもあったんじゃないかなぁって、思っちゃう」
「有るかもしれないし、無いかもしれない。それでも、一つだけはっきりと言えるのは、新女の練習がウチより甘いわけがねえだろうなってことだ」
「だなぁ……あそこの鍛えられ方、半端じゃないもんな」
 納得顔で、幸音鈴。少し考えて、香澄も力強く頷いた。
「だから、気にせずに。次は思い切り潰す覚悟でやれ。……三ヶ月は時間をかけすぎだ。雀の涙ほどとはいえ、給料を払わなきゃならねえんだからな。お前らが身を削って稼いだ金を、逃げ出すような連中にくれてやるなんで勿体ねえだろ」
「あぁ……そう言われると、惜しい気がしてきた。寮費や食事代引いて、二人にそれぞれ三ヶ月分となると……」
 口をへの字にして、幸音鈴が宙を睨む。計算しているのだろうけれど、幸音鈴の暗算じゃあ、怪しいものだ。
 ニヤッと笑って、具体的に教えてやる。
「お前ら全員、焼肉屋に連れてって、腹一杯食わせてやってもお釣りが来るよ」
 焼肉と聞いて、二人の喉がゴクリと動く。
 盛大に、涎を飲み込んだことだろう。
 うっとりとした視線を彷徨わせて、感極まった幸音鈴がため息をついた。
「焼肉といえば……あそこ、旨かったよなぁ。鹿児島の、霧子さんと初めて会った時に連れてってもらった……」
「うんうん。カルビもロースも蕩けるくらいに柔らかくてさ。ボク、あんなの初めて食べた」
 懐かしく思い出す二人につられて、龍子も慌てて唾を飲み込んだ。
 あの夜がなかったら、今のWARSは無かっただろう。
 広告代理店のやり手の美人さんこと、井上霧子の助力があってこその、マスコミ戦略であり、スポンサー営業だ。
「横浜が成功したら、あの美人さんも誘って、上等な焼肉屋で打ち上げをやるか。さすがに鹿児島までは行けねえが、東京近郊でも、あの美人さんなら、どっか旨い店を知ってるだろう」
「それ、いいかも。今度はボクたちが、霧子さんに、ご馳走してあげるんだ」
「でも、あの人……意外に大食いだよな。なのに、全然太ってなくて」
「影の努力が凄いのかも……」
 どこかで霧子がクシャミしていそうなことを言いながら、大笑い。
 ここまで明るさが戻れば、もう大丈夫だろう。
 龍子は、会場の隅の壁に凭れた人影を見やって嘯いた。
「お前達は、そうやってはしゃいでる方が似合う。しけたツラしている奴は、一人いりゃあ充分だろう」
 不意に注がれた視線から逃げるように、楠木悠理は設営中のリングに背を向けた。
 この所、十六夜美響との連戦が組まれ続けている状況だ。同じ外人勢用のロッカールームにも居づらく、会場の隅で時間を潰しているというのに。
「上等な、焼肉屋か……」
 会話の内容よりも、そちらに気を奪われてしまう自分が情けない。
 堪った涎を所在なく飲み下し、のんびりと暗い廊下を歩く。あと数時間もすれば、詰めかけた観客の熱気に溢れるだろう狭い通路も、まだ寝惚け眼。自販機で買った缶コーヒーに口をつけると、溜息が漏れた。
 対、十六夜戦は連戦連敗。
 それも、まったく良い所無しで、相手を光らせてばかりだ。
 美響を上げてやることが仕事であるなら、充分に仕事をしているのだろうが、そんな指示はマッチメーカーでもある龍子からも、出てはいない。
 対等の立場で戦い、手も足も出ない。
「こんな状況じゃ、しけたツラにもなるさ……」
 ガルム小鳥遊の紹介とはいえ、食い詰めて、アメリカから逃げるようにしてWARSのリングに上がった時には、それなりに好転を期待する虫の良い気持ちはあった。だが、日本のリングでもこんな調子では……。
「楠木悠理選手。今、お時間はありますか?」
 不意にかけられた声に振り向く。
 女としては並の身長だが、射貫くような眼差しが妙に印象的だ。上品な麻のブルゾンを覆うように被ったプレス用のゼッケンが、彼女の素性を物語っている。
「ブン屋さんなら、もっと私の他に話を聞くべきレスラーがいるんじゃないか?」
 煩わしいのは苦手と退散しかけたが、軽やかなフットワークで前を塞がれた。
「私は『週刊レッスル』の奥村美里と申します。私が聞きたいのは、楠木選手にしか聞けないことです」
「私にしか聞けないこと? ……そんなものあるのかな」
 そう切り出されて、悪い気はしない。
 だが、続く言葉を聞いて、悠理は顔を顰めた。
「ええ……アメリカマットでデビューする事について。フレイア鏡や、神塩ナナシーではなく、楠木悠理に訊いてみたいの」
「……誤解しているようだけど、私はそんな良いもんじゃないから。ガルムさんコネで呼んで貰っただけで、あっちじゃ試合にすら苦労している身だし」
「存じているからこそ、話して欲しいの。あなたに続こうとする子たちの為にも」

 体育館のロビーの窓越しに、グッズ売り場でサインを貰おうとするファンの行列が見える。視線を戻すと、向けられたカメラのレンズが照れくさいのか、白い頬にぎこちなく笑みを浮かべる草薙みことの姿に、ちょっと共感を覚えた。
 強引さと、それ以上の真摯さ。
 待っていたカメラマンとの会話を聞いて、ようやく元新日本女子プロレスの選手だった変わり種の記者のことを思い出した。
「私なんかの話じゃ、記事にならないと思うけど……」
「私は、記事にしたいと思うことを書くだけ。もちろん、誌面に載るかどうかは編集長の判断ね」
 スポーツドリンクのペットボトルの掻いた汗が、ローテーブルに水の輪を作っている。
 まさか、これが取材料じゃないよな……と思いながらキャップを開け、喉を湿らせた。
「アメリカマットの話を聞きたいなら、フレイア鏡や、ガルムさんに訊いた方が早いんじゃないかと思うけど。私と違って、裏も表も良く知ってるはず」
「華やかな部分を記事にしたいわけじゃないの。私が記事にしたいのは、アメリカマットの大部分を占める現実」
「どういうこと?」
「鏡や、ナナシーの成功で、女子プロレスのリングに立つには、既成の団体に属さなくても良い……アメリカマットでデビューするという裏技のようなものあると知られるようになった。そこに新たに、楠木悠理も加わったわけだし」
「私は……そんな大したものじゃないよ」
「周囲は、そう見ていないわ」
 指先で器用にペンを回しながら、奥村が微笑む。
 彼女が視線で差す方を振り向くと、目敏く悠理の姿を見つけた少女数人が、こちらを見てはしゃいでいる。
 何で、私なんかを見て、あんなに盛り上がれるのだろう?
「今のWARSのリングは、規模の差こそ大きいけれど、新女に次いで日本のナンバーツーのメジャーマットよ。アメリカで言うなら、WWCAのTVショーに出るようなもの。たとえコネであっても、憧れの舞台に立っているんじゃないのかな?」
「端から見れば、そうかも知れないけれど」
「だからこそ、お願いしたいの。経緯はともかく、招かれてWARSのリングに立つことが出来た楠木悠理が直面している現実を、包み隠さず話して欲しい。……安易な気持ちで、海外に渡ろうとしている子たちへの警鐘として」
「警鐘?」
「そう、警鐘よ」
 奥村はコーラで唇を湿し、肩で呼吸を整える。
 真っ直ぐな瞳が、悠理を見つめた。
「日本の団体の新人に対するシゴキは、ファンにも知れ渡っているもの。誰だって楽をしたいから、それをすっ飛ばしてリングデビューできる道があるならそっちを選ぶ」
「冗談じゃない。最初はキツイかも知れないけど、上がるリングが保証されてるなら、そっちの方が楽じゃないか」
「それが解らない子が多いのよ。昔に較べて貧富の差が激しくなったと言っても、この国で育った子たちにとって、今日の食事にも苦労するなんて、現実的ではないもの。リングデビューすれば、引く手あまただと信じて疑わない」
「……私も、似たようなものかな。試合を組んで貰えない。日本人……あちらでは外人だからと、ファイトスタイルを制限されたり、少なからず差別的なものもある。そんな事は考えずに、海を渡った口だから」
 ほろ苦く口元を歪める。
 自分で選んだ道だから、後悔はしていない。
 強がりながらも、先程の香澄達の姿が思い出されて胸の奥が疼いた。
「お願いできますか? 楠木選手」
 その眼差しに、興味本位の影はない。
 悠理が頷くと、初めてICレコーダーのスイッチが入れられた。
 プロレスラーを志した理由。日本の既存団体を選ばずに、海外デビューを決めた訳。
 当たり障りのない話から、次第に深い所へと話題が進んでゆく。
 話題の引き出し方の巧みさ、こちらの感性を刺激する言葉の端々のとらえ方。
 奥村美里というこの記者は、間違いなくリングに立った経験がある。
 それが実感できるからこそ、悠理も安心して奥深い所まで話すことができた。
「……これ以上の経験は、私はまだしていないかな」
 全てを語り終えて、二本目のペットボトルを飲み干した。
 ずいぶんと喋ったつもりだったが、時計を見るとまだ試合開始にはずいぶんと間がある。
posted by Luf at 23:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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